ハイマツと動物たち

中腹にまで広がる知床のハイマツ

ハイマツと言えば、本州では日本アルプスなど標高2000m以上の高山帯まで行って初めて目にする植物ですが、知床では標高500m付近から見ることができます。海抜0mに近い知床博物館の中庭にもハイマツが植栽され、繁茂しています。

この博物館のハイマツに8月中旬頃から2頭のエゾシマリスが姿を見せるようになりました。朝からハイマツの枝に登っては球果(松ぼっくり)の中の種子を食べます。脂肪分を多く含む種子は栄養的にも優れた食物です。自分の体重でゆらゆらと揺れる枝につかまりながら、巧みに球果をかじって中の種子を取り出します。お昼頃にはお腹いっぱいになったのか、ハイマツの側にあるハルニレの樹の又で、一眠り。昼寝をした後、再び夕方から日没近くまで食事に没頭します。


成熟した球果。受粉した翌年に成熟する。


ハイマツの球果をかじるエゾシマリス(博物館中庭)

ハイマツ球果は動物たちに大人気

観察していると、種子目あてにハイマツに来るのはシマリスだけではないことがわかります。ゴジュウカラやアカゲラ、ハシブトガラスといった鳥類も種子を食べにやってきます。アカゲラは枝についたままの球果の種鱗に細い嘴をねじ込むようにして壊し、中の種子を巧みに取り出します。ハシブトガラスは球果ごと運んで岩のくぼみなどぐらつかない場所に固定して嘴で球果を壊して種子を取り出します。非力なゴジュウカラは一片の種鱗ごとくわえて飛んでは樹のくぼみなどに挟んでつつき壊し、種子の中身を食べます。

8月末には博物館のハイマツ球果は全て動物たちに食べられてしまいました。実がなくなると動物たちの姿も見えなくなりました。

ハイマツの種子を食べる動物にはどんな動物がいるのかもっと知りたくなり、9月中旬、ハイマツの自生する硫黄山新噴火口に行ってみました。硫黄山新噴火口は見通しがきくため、観察には最適です。ここではさまざまな動物の食事姿や食事痕を見ることができました。鳥類ではホシガラス、ハシブトガラス、ミヤマカケス、ゴジュウカラ、それにキジバトまでが種子を食べていました。新噴火口付近の溶岩には小さなくぼみや穴がたくさんあります。鳥たちはここに球果を固定して嘴で壊し、種子を食べます。哺乳類ではシマリスに加え、見晴らしの良い岩の上にはハイマツ球果ばかりを食べたヒグマの糞が鎮座していました。この他にも、ハイマツ種子を食べている動物はたくさんいるはずです。


ハイマツ球果


ハイマツにやってきたアカゲラ(博物館中庭)


ハイマツを食べたヒグマの糞(知床硫黄山新噴火口)

動物たちが種子を運び、種まきをする

動物にとってハイマツの種子が大切な食物であることはみなさん納得されると思いますが、ハイマツにとって見れば種子を全部食べ尽くされて困るのではないかと思われるかもしれません。

ところが、ハイマツにとって種子を食べられることは悪い話ではなく、むしろ子孫を残すためには食べてもらう必要があると言えます。ハイマツの球果はそのまま地面に埋められても鎧のような種鱗が邪魔して上手く発芽できません。

ホシガラスやシマリスはその場で食べるだけでなく、地中に食べ物を隠し、貯蔵する習性があります。運搬貯蔵された種子は全て食べられるわけではなく、一部はそのまま食べ忘れられ、やがてそれらは発芽します。ハイマツは動物に種子を食べてもらう代わりに、子孫を離れた場所に残すチャンスを得るわけです。このような動物に種運びをお願いする種子散布法を動物散布といいます。このような関係はミズナラ、オニグルミとエゾリス、アカネズミなどでも見られます。

硫黄山新噴火口周辺の崖や砂礫地にはハイマツの稚樹が束になって生えていますが、これらはホシガラスなどが貯食した食べ忘れが発芽したものです。植物が生えていない裸地などにホシガラスは好んで貯食します。食べ忘れの種子は新天地で繁栄するチャンスを得ます。また埋められた場所からまとめて発芽することで、発芽しやすくなり、稚樹の段階では風雨や食害などから生き延びる可能性も高いと言われています。

実りの秋、ハイマツ以外にもさまざまな樹木が実をつけます。秋晴れの日、樹木と動物の不思議な関係を観察してみませんか(増田 泰2004.9.15)。

(参考文献:木と動物の森づくり、齋藤新一郎著)


裸地に育つハイマツ幼木(知床硫黄山新噴火口)


束になって発芽したハイマツ

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斜里町立知床博物館 0994113北海道斜里郡斜里町本町49-2 tel 0152-23-1256/fax 0152-23-1257